断片的で部分的な読書記録(2025年7月)
Karan Hao『Empire of AI』Penguin Press
OpenAIの関係者への徹底的な取材をもとに書かれたジャーナリストによる告発の書。
読み応えはナオミ・クレインの『ショック・ドクトリン』やトーマス・フリードマンの『フラット化する世界』に通じるものがある。
本書はタイトルにある通り、AI企業が植民地主義、帝国主義の様相をなしていることを訴える。
例えば資源。電力や水源、土地を収奪。そして低賃金労働など。
こうした「帝国主義的ムーブ」がAI企業による恩恵の背後で起きていることを指摘する。そしてそうした倫理的な問題は企業の体質にその原因があるという。そしてサム・アルトマンのCEO解任騒動もそうしたガバナンス軽視の体質の結果の1つだと語る。
実際にこうした問題を考えるのはAIを使う全ての人にとって重要だと思う。特にソーシャルビジネスはじめ、ソーシャルセクターにとっては深刻な問題になる可能性も。
とは言えエンドユーザーにできることはさすがに限られすぎているとも思うのでこうした「負の側面」を報じたニュースを積極的に読むとか、シェアするとか、そうやってリスクや倫理的側面に関心を持ち続けることが大事そう。
戸坂潤『日本イデオロギー』岩波書店
戦前の日本で拡張する日本主義に異議を唱えた一冊。
当時の知的雰囲気がファシズムの誕生をいかに準備していたのか、単にアクチュアルな分析にとどまるのではなく、唯物論の立場から京都学派やハイデガーらのアイデアを批判していく。
三木清の『構想力の論理』も同じく岩波文庫で出ていて面白く読んだ記憶だが、同じく刺激的でエキサイティングな本。戸坂と三木は当時の左派思想家としてどちらも治安維持法によって投獄されたことが残念でならない。戦争や言論統制がいかに国力を削るものなのか改めてその残酷さに気付かされる。
本書の内容に戻ると、ここで出されている問題提起は多分に現在にも通じるものがあると思う。そういう意味では「現代のための思想」が必要なのかもしれない。やはり、物語は終わらない?
そして戸坂が唯物論をその解決として提案したところも現代の左派の状況に重なってしまう。
いずれにしても新たな物語を待望している気がしてならない。
富永京子『なぜ社会は変わるのか』講談社
社会運動論の第一人者、富永京子先生による社会運動論の入門書。
タイトルに同じく講談社現代新書から出ている小熊英二先生の『社会を変えるには』を感じずにはいられない。運動研究も行っている小熊先生から新たな世代への趨勢が見られる。
内容としてはかなり分かりやすくかつシンプルに運動論の学説史をさらいながら、各理論の特徴や得意なことをまとめている。
Twitter(現X)でこの本に対して苦言とも言えるコメントをしていた運動論研究者がいたが、その人の著作よりはアクチュアルに運動の実際が描かれていると思う。
社会運動と言うと未だに安保闘争を想起する人がいるかもしれないが、それはかなり時代から遅れてることが読むと分かる。
本書では触れられていないが、戦争に抗議するために戦争当事国(侵略側)にサイバー攻撃を行うハクティビズム(ハッキング+アクティビズム)というのもアラブの春前後から出てきている。
そうした社会運動の現代的展開を見るためにもまずはこの本でスタートしたい。
ジョセフ・ルドゥー『存在の四次元』みすず書房
「私とは何か?」という哲学的問題を哲学だけに限らず、生物学や神経科学などさまざまな分野に拡張していきながら探求していく一冊。
タイトルにある存在の四次元とは文字通り、存在には4つの次元があるという整理。生物的次元・神経生物的次元・認知的次元・意識的次元の4つ。人間はこの4つの次元全てを備えているが、種によってはそうではないというように分析される。
本題については割とあっさりで、むしろこの結論が導出されるまでの哲学、心理学、生物学、神経科学や脳科学など様々なディシプリンを歩き回るところに知的興奮がある。
発売されたのは知っていて、多分読まないなと思っていたところ、本屋に向かう電車で読んでいる人がいて気になって読んだら面白かった一冊。
村上春樹『1Q84』新潮社
僕の中で夏といえば『1Q84』。
去年の夏いい感じだった人が好きだったのが村上春樹でその時初めてちゃんと村上春樹を読んでハマった。
特に1Q84は小学生の時、気になっていた男女が運命的に再会するまでを描く長編で、当時いい感じだった人がキューバに旅行に行った時に読んだのもあって会えない人に会いに行くというストーリーに自分を重ねてエモがっていた。それがあって夏になると1Q84が読みたくなる。
ちなみに村上春樹を読む時は必ず宇多田ヒカルを流す。個人的1Q84のテーマソングは「Goodbye Happiness」。
特に最近、村上春樹の女性描写に問題が指摘されるけどあんまりまだしっくりきていない。多分、海辺のカフカのカフカくんに憧れてしまっているところがあるからだと思う。
7月は他にも色々おもしろい本はあったけど夏の風物詩、1Q84を外すわけにはいかない。何度読んでも違う味がする。また来年の7月に1Q84を読むと思う。

