断片的で部分的な読書記録(2025年5月)
オードリー・タン, グレン・ワイル『Plurality』サイボウズ式ブックス
この本をどう読むのか、その読者のスタンスが大きく問われる本だと思う。その一端は蔦屋書店で開催された刊行記念イベントでも明らかだった。
つまり、この全てに完全に同意し、啓蒙しようとする人にはある種テクノユートピア主義のような色を感じる。しかし実際にそこまで甘くはないし、その移行過程で生じる犠牲から目を避けることはしたくない。
一方で極めて「人文的」な読み方をすると現状のキャッチアップはおろか、情報系と人文系のギャップが増すばかりで本当に話ができなくなってしまう。
その上で何がいちばん重要なのかというのは基本的人権が尊重され、あらゆる人が少なくとも最低限度の営みが自らの意志によって実現できる社会制度は何かを考えることだと思う。つまり、Pluralityとはその仮説の1つであり、手段であって、決してこれを実現することが目的と化してはいけないということだと思う。
より手近にミニパブリックスみたいなアナログな取り組みを進めることが日本では先に取り組むべき事項なのかもと。
あとは全体的に柄谷行人の気配が感じられる本だった(キーワードで言えば交換様式、世界共和国)けどそのあたりはどうなんだろうか。
山田尚史『きみに冷笑は似合わない』日経BP
積極的にビジネス書、特に自己啓発書に近い類の本は読まないようにしていたけど、何度もインターネットでおすすめする声を聞いたので読んでみたら想像以上に面白かった。
タイトルの通り、冷笑している暇があったら感情と体を動かそうという本と言ってもいいと思う。最近よくある「タイパ」、「コスパ」に囚われることなく、好きなことをやろう、失敗したっていいじゃんと。
ただこれは最近「逆張り」的に言われてることでもある。この主張に最大の説得力を与えているのは著者の経歴、実績だと思う。それが相まって、「あぁ、こんな人がこう言っているなら一理あるな」と思わされる。
ChatGPTが便利になるにつれ、頭の使い方が難しくなった。長文だってプロンプトを入れれば生成されてしまう、いわば努力を徹底的に避ければそれなりにできてしまう中で、どうやって熱を込めてコトに向かう人間になれるのか、それは「斜に構えることをとにかくやめる」というメッセージに詰まっていた。
エドウィン・ブラック『IBMとホロコースト』柏書房
この本を入手するのにほぼ丸1年を費やした。初めて見たのは去年の夏、某経済新聞社でインターンをしていた時に政策ユニットの島の机にあったのを見たのがきっかけだった。当時既に絶版で、そこから長い絶版本探検の末にようやく確保した。
タイトルの通り、ホロコースト、もっと言えばナチスドイツの台頭と権力掌握にIBMがどのように協力したのかを膨大な歴史的資料を読み解きながら解明していった一冊。序文にある「途中から読んだりするくらいなら読まないでほしい」という筆者の強いメッセージから覚悟を感じ、背筋を伸ばしながら読んだ。
そしてこの事実は他人事、昔の話と切り捨てられない。無邪気にAIを行政や政治機構に導入することの危険性、番号による国民情報の把握が一歩、二歩間違った時にどういう結果をもたらすのか、そういう起こり得る未来を想像すると過去の残酷な歴史と現在が地続きにあることを思い知らされる。
カテライ・アメリアら編『ELSI入門』丸善出版
最近良く話題になるELSIとは、Ethical(倫理的課題)、Legal(法的課題)、Social Issues(社会的課題)の略称で、科学技術の社会実装によって生じる非技術的課題のこと。そしてこの『ELSI入門』は、様々な科学技術の具体例を示しながら、それぞれにどういう非技術的課題が生じている/生じる可能性があるのか、そしてそれらについて何をどう考える必要があるのかがまとめられた一冊。
生成AIや量子技術はもちろん、EdTechやClimateTechまでもがその検討の範囲に含まれていたことが以外だったと同時に、読むと確かにとなる議論ばかりだった。
『IBMとホロコースト』が過去の教訓を伝える機能だったとすると、この本はじゃあ何をどう考えるのか、考える材料、ツールを与える機能があると思う。
レジー『東大生はなぜコンサルを目指すのか』集英社
『ファスト教養』で知られるレジー氏の最新作。タイトルの通り、東大生が官僚ではなくコンサルに向かうその背景について検討がされている一冊。同じく集英社新書の『なぜ働いていると〜』と違ってしっかりと問題設定と問題に対する回答が示されている。
もちろん待遇など条件面の要因はあるだろうが、ここで示される「成長」というキーワードが面白い。サッカー選手の自己啓発書風の自伝やNewsPicks、PIVOTといったインターネットカルチャーなどが絡み合いながら成長に囚われ、ユートピアとしてのコンサル業界を目指すという。
同い年前後数歳の人種が一番苦手なのでこのあたりの肌感覚はよく分からないがそんなに成長したいなら大学院に行って修士でも博士でも取ればいいのにと思う(皮肉にも公共政策系の大学院進学者はコンサルに行きたがるらしい)。

