2025年2月に読んで面白かった本5選
1. マイケル・キーン、ジョエル・スレムロッド『課税と脱税の経済史』みすず書房
分厚いが圧倒的な面白さ。人類の課税と脱税のいたちごっこが数千年前から現在まで記述された一冊。何と言っても税が太古から支配の手段の1つとして機能していた点は興味深いし、「ボストン茶会事件」と名前はよく聞く出来事や、戦争の起点に課税があるというのは興味深い発見だった。
中でも一番面白かったのはイギリスの窓税の例。窓の多さ=資産の豊かさとして窓の数に応じた課税が考案された。しかし、そのスタイルによって影響を受けたのは富裕層に限らず、貧しい家では窓を覆ったり、窓のない家に住むなどして税負担を軽くする動きが起きた。同様に富裕層も窓を塞ぐようになり、健康を害する要因となってしまった。
こうした課税と課税回避を巡る国家と国民の争いの上に今の社会があると思うと感慨深い。
2. マシュー・ソウルズ『建築のかたちと金融資本主義』草思社
タワマンはなぜ増殖し続けるのか?という疑問に(も)答える一冊。現代資本主義の特徴の1つである「金融資本主義」(Finance/Financial Capitalism)と建築をめぐる歴史と現在、未来を「氷山・ゾンビ・極細建築」というキーワードから読み解いていく。
ここでは日本の例は出てこないが、直近の日本における大規模な再開発もこうした指摘の例は漏れないだろう。どことは言わないが、地形すらも変えて作りたいものを作るというなんとも趣味の悪いデベロッパーによって作られた建築はまさにこの例にあたるだろう。
最近タワマン増えたよなとか、増えたけどこれでいいのかなぁと言葉にしえない違和感を持っている人にはぜひおすすめしたい。歴史を繰り返さないために。
3. モーリッツ・アルテンリート『AI・機械の手足となる労働者』白揚社
2月末に出た『デジタル封建制』よりも読みやすいし面白い一冊だった。ヤニス・バルファキスの本は突然娘や父親に語りかけるから読みにくい。話し言葉と書き言葉も混ざっているし。
一方この本は、調査や研究の元に練り上げられた、より残酷な現実を明らかにする試みと言える。
僕はよく自分のことを「デジタル奴隷」(奴隷という表現の妥当性については一瞬横においてほしい)と読んでいる。物理的に身体は自由であるが、左腕に巻かれたデバイスに送られる通知1つで自室が労働の場に変化する。さらに余暇のつもりで見た映画やオンラインショップサイトの履歴は全てマーケティングデータとして商品化されている。こうした状況をそう呼んでいる。
この本はそうした「AIによって働かなくてよくなる」といったユートピアをユートピアのままにさせてくれる。つまりそんなことはおそらく起きないし、少なくとも自分はAIによって労働から解放される側の人間ではない。そうしたこれから労働者に訪れる変化について考えさせられる一冊。
4. スティーブン・ピンカー『人間の本性を考える』筑摩書房
いつもスティーブン・ピンカーとピーター・シンガーの違いが分からなくなるが、こちらはスティーブン・ピンカーの本。
人間の心は「空版の石版」(ブランク・スレート)として生まれ、その後の環境によって発達するとした主張に徹底的に反証していく一冊。つまるところ、遺伝的要因もあるし、その後の環境的要因、文化・社会的要因も多分に影響するというやや当たり前だが根拠を持って主張することが難しい問いに取り組んでいる。
そしてこの本の内容はフランス・ドゥ・ヴァール『サルとジェンダー』という3月頭に出版された本ともリンクする。
文庫なので読みやすいのでじっくり読む時間がある時にぜひ。
5. ピーター・ティール『ゼロ・トゥ・ワン』NHK出版
よくよく考えると、僕の心の内に済んでいるマッチョイズムの根源はこの本にあったかもしれない。今はもう、フィルムの現像待ちでウロウロするくらいとなってしまった近所の本屋で中学3年の時に買った本だった。そしてここから起業に対する熱が上がっていった。
この本を読み返すに至ったのは最近のアメリカをめぐる状況について考えようと思ったのがきっかけだった。既に多方面で論じられているように、民主党支持が多かったシリコンバレーがなぜトランプに転向したのか、そもそも「MAGA」の根底にあるものを考えたかった。『ヒルビリー・エレジー』もいいのだけど。
破壊的イノベーションや「競争よりも独占」といったラディカルにも聞こえる主張の多くは皮肉にも今のアメリカと合致する点を感じてしまう。リーンなスタートアップではなく0→1というのはなかなかにマッチョだけどだからこその良さもあると思う。そうしたわけでもう少し現代アメリカについて考えたいと思って読み始めた1冊だったが、単純にぬるくなった自分の思考に刺さってしまった。

